国防ジャーナル、2001年9月
北朝鮮の金正日国防委員長は、7月26日から24日の間、ロシアを長期訪問した。金正日国防委員長のロシア訪問日程に
盛り込まれた意味は、複合的だが、金正日国防委員長が選んだ行き先を見れば、北朝鮮が抱いている苦悶が垣間見られる。ロシアのノヴォシビリスクとオムスク訪問は、情報技術(IT)を始めとした先端産業育成と食糧難解決、老朽な軍事装備現代化
と噛み合っている。特に、ノヴォシビルスクは、先端科学研究センター「アカデムフォトロク」を軸に物理学者・科学者等、ロシアの頭脳達が集まっているところである。ロシアは、ここをシベリアの中心地に育成しようという構想を備えているという。この訪問は、金正日国防委員長には、中国上海の
浦東視察が2回目の海外情報技術(IT)学習となる計算である。
近年に入り、北朝鮮は、連日、「21世紀を情報産業時代」に等式化しつつ、人民経済部門の情報化がなければ、強盛大国が不可能だと演説する中、情報技術産業のための「
単番跳躍」の中心軸として集中強調してきている。
現在、北朝鮮の戦略は、情報通信産業の重要性を認識して、積極的育成政策を展開する一方、北朝鮮体制の危機に連結する可能性がある社会全般の情報化は、遮断する分離政策で一貫している。現実的に、北朝鮮情報化の
波が北朝鮮開放は勿論、軍事技術と接木の二重性に対して排除できない状況を考慮しないわけにはいかないのだろう。
本稿では、北朝鮮の情報技術(IT)実態の分析を通して、これに対する現住所を認識するのに目標を置いた。そして、北朝鮮の情報化技術(IT)が軍事に及ぼす影響に対して、概念的に整理してみる。
北朝鮮の情報化現況
■情報インフラ水準
現在、北朝鮮の情報化水準は、韓国に比べて、非常に脆弱である。北朝鮮の情報通信インフラ水準は、韓国の70年代水準であると評価される。国際電気通信連合(ITU)の「世界通信報告書」によれば、1997年基準で、北朝鮮の通信回線は、約120万回線で、電話普及率は、人口100名当たり5回線水準である。北朝鮮の通信網は、軍事用と公共行政網から先ず構築されてきており、一般個人のための通信網は、未だ微弱である。一般住民は、大概公衆電話を利用する。
公衆電話は、平壌、咸興等、大都市の主要地点と市・郡地域の逓信所に制限的に設置されており、1996年当時、2,720余台水準だった。通信施設のデジタル化は、韓国が65.1%であるのに対して、北朝鮮は、4.6%にしかならない。通信システムの場合、農漁村には、手動式交換機、主要都市には、機械式交換機が設置されており、平壌には、フランスのアルカテルが提供した電子式交換機2個システムが設置されている。市外電話網は、まだ微々たる水準だが、最近、北朝鮮が最も力を注いでいる分野が正に光繊維ケーブルを通した全国市外電話網の現代化作業である。
現在、北朝鮮は、落後した通信インフラを現代化するため、電話の自動化、デジタル化、電子計算機化を推進しており、既に平壌を中心に主要都市間の通信線路を光繊維ケーブルに交換した。北朝鮮の光ケーブル工事は、国連開発計画(UNDP)の協力の下、平壌市と地方都市を連結する方式で始められ、全国に拡大されている。現在まで、平壌〜咸興、平壌−新義州、新義州〜平安北道内16市・郡に光繊維ケーブル化工事が完了した。
しかし、現在まで、平壌と主要都市間に設置された光ケーブルの総延長は、1,400kmにしかならないものと推算される。今まで、北朝鮮の長距離通信回線は、大部分同銅線で築かれている。一方、北朝鮮は、1997年末まで、平壌と70余個市・郡間の交換機を手動式から自動式に転換したものと知られている。しかし、その他の地域と平壌間のスイッチは、今も手動式交換機に依存しているために、これを自動化することが至急な課題の中の1つである。
■情報化人力
北朝鮮の優れた情報通信部門人力は、北朝鮮が情報通信部門を中心とした発展戦略を立てるに当たって、根幹であると言える。現在、国際水準級コンピュータ関連専門家は、60余名程度と推定される。
北朝鮮は、1980年代、金日成のヨーロッパ訪問以後、電子及びコンピュータ関連人材育成に集中してきたが、1985年に4年制コンピュータ要員養成機関である「朝鮮計算機単科大学」を設立し、1986年には、プログラム開発専門機関である「平壌情報センター」を、1990年には、「朝鮮コンピュータ・センター」を設立した。また、1998年から各級中・高等学校でコンピュータ教育を始めて以来、1999年末、金日成総合大学に初めてコンピュータ科学大学を設置し、この外にも、金策工業大学、平壌電子計算機大学等、主要大学にもプログラム学科を設置した。
特に、コンピュータ関連主要大会入賞者に自分が願う大学に自由に入学できる特権が与えられる等、奨励政策のおかげで、コンピュータ関連分野に優秀な人材が集まっている。従って、コンピュータ専門大学である平壌電子計算機単科大学と、金策工大等は、北朝鮮内の優秀な人材
を選考するところだと言える。金策工大電子計算機学部の場合、学生定員が6百名で、北朝鮮内の電算教育機関中、最大規模を誇る。優秀な情報人力を養成するために、南北交流が微々たる状態でも、情報技術産業において積極的な交流協力を推進している。
2001年8月2日、中国丹東市外郭にハナ・プログラム・センター開所式が開かれた。ハナ・プログラム・センターは、コンピュータ・ソフトウェア開発及び販売と北側情報技術(IT)人力養成を目的として設立された南北合作企業である。開所式には、南と北から来た関係者達と
丹東市副市長等、北側「コンピュータ秀才」40名が参席した。北側平壌情報センター(PIC)が主管し、熾烈な競争を突破して、選抜された北側人力は、プログラム開発に10名、4ヶ月教育課程に30名が投入される。
北朝鮮の情報技術(IT)の実態
■コンピュータ普及率及びネットワーク化
北朝鮮の情報化現況を見計らう最も重要な基準としては、コンピュータ普及率を入れることができる。現在、北朝鮮が保有しているコンピュータ機種に対しては、詳細な情報が不足するが、
ワッセナー協定の規制を受けており、大型コンピュータの導入は不可能である。但し、テポドン1号と光明星1号人工衛星発射を通して、第2経済委員会傘下の国防産業分野では、高性能コンピュータが活用されていることが知られている。また、個人用コンピュータは、現在、平壌コンピュータ組立工場において、毎年3万余台の32ビット・コンピュータを生産している
程度であることから、北朝鮮のコンピュータ普及率は、極めて低調であると言える。従って、一般的に普及しているのは、制限的だが、16ビットと32ビット・コンピュータが主従を成し、ペンティアム級以上のコンピュータは、一部機関で少数使用されている。現在、全国的に10余万台のコンピュータが普及している。
北朝鮮において、現在、コンピュータ・ネットワーク化は、至極制限的に行われている状態である。その理由としては、通信網を始めとした施設の問題、そしてコンピュータ普及水準の問題以外にも、ネットワーク化が体制不安要因として認識されてきたためである。このために、インターネットやPC通信のように、一般人を対象とする開放オンライン・サービスは、ないものと見られる。但し、90年代初盤から、金日成大学、朝鮮コンピュータ・センター等を中心に、近距離通信網(LAN)を構築、ネットワーク通信をしてきた。また、1997年6月には、広域電算網を設置し、科学技術関連資料と電子郵便サービスを提供している。
インターネットにあって、北朝鮮は、全世界で唯一インターネット・ケーブル網に連結されていない国家として知られている。最近(2001年7月11日)ニューズウィーク韓国版において、情報技術産業が最悪な国家として、「情報の流れが
詰まった孤立と沈黙の地に」北朝鮮を入れている。従って、北朝鮮のインターネット活用は、一部公共機関に局限されている。インターネット上において、北朝鮮の国家ドメイン記号.kpの住所は、1つも登録されていないのが実情である。しかし、最近、米国防省に最も多く接続を
試みる国家が北朝鮮だという報道に現れているように、北朝鮮は、日本と中国等、海外地域にウェブ・サイトを構築し、インターネット接続を試みている。この内、代表的なサイトが1996年10月に構築されて以来、最近、英語版を開設した朝鮮中央通信のホームページ(www.kcna.co.jp)と汎太平洋朝鮮民族経済開発促進協議会が、1999年10月、北京に構築した朝鮮インフォバンク(www.dprkorea.com)がその代表的例だと言える。
現在、北朝鮮のインターネット接続は、中国と日本を通して行われており、今でも、北朝鮮外務省、労働党対南事業部、国家安全保衛部、武力省偵察局等、情報部署及び軍関係者とコンピュータ専門家に局限して、活用されている。この外には、UNDP等、平壌の国際機構の場合、北朝鮮当局の許可を受け、国際電話を利用したインターネット接続を指導している。
しかし、北朝鮮がインターネット接続を完璧に否定しているのではなく、最近、北朝鮮の各種動きは、インターネット網接続のための準備に入っていると言える。オーストラリアと連結実験を成功裏に終えたのに引き続き、2000年6月、朝鮮逓信会社と米国スタネック・グローバル・コミュニケーションが国際電話線供給契約を締結したのは、北朝鮮が
初めて大規模データ・ネットワークを外部世界と連結させることにしたことを意味する。従って、ハッカー侵入に備えたプログラム開発が完了すれば、インターネット網に連結する可能性が存在する。
■ソフトウェア
金正日国防委員長は、コンピュータ・ソフトウェア開発に相当な意欲を見せている。北朝鮮情報技術事情に精通した朝鮮大学校ハ・ミニル理工学部情報処理学長は、2000年10月、「金正日総秘書は、2002年まで、自国語OS(運営体制)の開発を目標にする等、国家
死活をかけて、情報技術に全力投球している」と言及した。
北朝鮮媒体は、金正日国防委員長がコンピュータに精通するという点を強調する報道をしばしば出している。2000年5月末に、中国を非公式訪問した金正日国防委員長は、北京市にある燕山コンピュータ会社の研究開発生産センターを訪問し、相当鋭い質問をぶちまけたという。
金正日国防委員長は、98年2月8日、「全国コンピュータ・プログラム競演及び展示会」視察時、コンピュータ・ソフトウェア開発を促進させるように指示した。彼は、この時、「科学時代の要求に合致するように、プログラム技術を発展させることは、非常に重要な意義を有する」とし、競演大会を定期的に開催し、技術交流と経験交換を活性化し、子供時代からコンピュータ教育を実施すること等を指示した。
最近には、金正日国防委員長が「電子ゲーム機を青少年や学生達が多く持って、遊べるようにすれば、彼らを健全に教養させられるのみならず、知能発展にも多くの助けとなる」として、青少年と学生達が電子ゲーム機を備えて遊ぶことを奨励していることも報道されている。また、最近、北朝鮮の平壌等、主要都市にゲームセンターが登場し、特に跆拳道PCゲームが人気があるという。北朝鮮の主要研究開発機関及びソフトウェア開発現況は、次の通りである(表−1)。
■ハードウェア
北朝鮮のハードウェア産業もやはり、韓国に比べて技術とインフラ等、全般的に落後している次第である。北朝鮮のコンピュータ生産能力は、平壌コンピュータ組立工場において、32ビットIBM PC互換機種2万台を生産できる規模と推定される。北朝鮮で使用されるPCは、大部分、486級以下で、ペンティアム級のPCは、大学や研究所に限定されている。半導体分野では、16メガ最大規模集積回路(IC)を開発し、朝鮮科学院傘下の電子工学研究所においてIC試験工場を設立する等、一定の発展があったものと見られる。
北朝鮮は、80年代後半、金策工大内に半導体研究所を設立し、平壌集積回路工場、3大革命赤い旗集積回路試験工場、端川栄誉軍人半導体工場等を通して、印刷回路基盤(PCB)及び基礎半導体を生産している。海州と
端川にも、半導体工場がある。北朝鮮は、64M
DRAM半導体開発に力を注いでいるが、今は、技術水準がこれに及ばないものと知られている。しかし、1998年8月に発射された「光明星1号」の場合、8万種以上の部品を自主調達したものと知られており、軍事技術と関連した情報通信ハードウェア部門は、無視できない程度の技術力を保有しているものと把握されている。
しかし、北朝鮮は、最近、電子工業省傘下会社であるものと推定される電子製品開発会社において現代的なコンピュータ生産基地がまとめられ、生産を始めたと、5月16日、平壌放送において報道した。生産されたコンピュータ(1,300台)は、6月、コンピュータ専門人力養成所が設置された万景台学生少年宮殿等、学校院伝達された。北朝鮮は、4月1日、万景台学生少年宮殿、平壌学生少年宮殿、金星第1、2高等中学校等、4校に「コンピュータ
秀才班」を新設したことがある。今回のコンピュータ生産の特徴は、時期面において、80年代末以後中断されたコンピュータ生産を再び始めたという点と既存のコンピュータ関連工場・企業所ではない新規業体で生産したという点等を入れることができる。北朝鮮の主要コンピュータ生産業体としては、平壌コンピュータ組立工場、科学院傘下の電子工学研究所、平壌IC生産工場、金策工大半導体研究所等がある。従って、今回のコンピュータ生産は、ソフトウェア部門に比べ、技術水準が相対的に落後しているハードウェア部門の生産を再び始めたことによって、情報技術がより向上する効果をもたらしたものと分析される。
北朝鮮の軍事に及ぼす影響
全地球的な情報通信網の形成により、情報戦争の重要性が更に大きくなっている現実に処している。冷戦を経て、軍事部門にあって、量的軍備の概念が質的軍備強化に続き、情報通信技術の発展を軍事部門に導入しようとする試みが多様に進行されてきた。これは、産業用であると同時に、軍事用に発展した情報技術の「二重的性格(dual-use technology)」に根拠を置いてみると、当然のことである。最近、新しい次元の情報通信体系は、軍事戦術と軍構造にも急激な変化をもたらしている。
特に、「政治ハッカー(hacktivist)」による「サイバー・テロ」の拡大は、戦争の様相がサイバー戦、電子戦化していることを見せるものである。全世界的に情報戦化、情報軍化されていく傾向の中で、北朝鮮もまた、このような新しい戦争と軍隊の趨勢に対応する必要が要求されたのであろう。
湾岸戦において、多国籍軍の勝利は、単純な先端武器体系の優秀性のみならず、総体的戦場管理能力を備えた情報化戦力が多国籍軍に打撃力を主としたアナログ的戦力であるイラク軍が敗北したと見ることが可能である。中国が1997年、コンピュータ・ウイルス部隊を創設したのに引き続き、1999年には、ハッカー部隊を創設し、北朝鮮もまた、旧ソ連国防省の支援下に電子戦専門家を養成していることが知られている。このようなサイバー戦争は、特にコソボ事態で最もその威容を良く現した。米国は、ミロシェビッチ・ユーゴ大統領の全世界銀行口座を無力化、遮断し、虚勢を並べ、これに合わせて、ユーゴ側は、NATOのウェブ・サイトを麻痺させたことがある。
北朝鮮のハッキング及び保安技術も、世界的水準と知られている。特に、北朝鮮は、世界的なハッカーを育てるため、12〜13歳の間の学生の中から、IQ
150以上の学生を引き抜き、特別教育することによって、専門家を養成中である。人民武力省傘下の電子戦大学でも、毎年数十名のハッキング及び保安専門家が養成されると伝えられる。また、北朝鮮は、旧ソ連国防省の支援下にミリム大学において、コンピュータ及び電子戦専門家を養成していると知られている。地球上において、米国防省に最もハッキングを多く行う国が北朝鮮だという説がある位である。
北朝鮮の軍事情報通信技術は、高性能コンピュータ導入及び開発を活用、ミサイル軌道調整、誘導電波収集及び解読水準を保有したものと推定される。
「ジェーンズ・インテリジェンス・レビュー」は、「北朝鮮は、大規模コンピュータ生産能力を備えており、これを通して、ハッキング技術及びコンピュータ・ウイルス注入能力開発に力を注いでいる」とし、北朝鮮は、現在、制限的だが、電子攻撃と防御が可能な電子戦(Electronic
Warfare)遂行能力を保有しているものと分析されたと主張した。
この雑誌は、「北朝鮮の通信網が光ケーブルに代替されており、軍部隊間又は政府部署間コンピュータ網が相互連結されており」とし、「朝鮮コンピュータ・センターと平壌プログラム・センターにおいて、そのような情報技術(IT)分野を開発しており、韓国は、特に2000年1月〜10月、商業的ウェブ・サイトと政府ウェブ・サイトに1,238件のハッキング事例が報告されたことがある」と報道した。
結論的に、北朝鮮の情報技術(IT)化は、経済と社会は勿論、軍事分野にも強大な影響を及ぼすものと判断されることから、これに対して長期的で、体系的な対応策を樹立しなければならないだろう。
最終更新日:2004/03/19